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神村恵カンパニー公演『山脈』のアフタートーク

アフタートーク(こまばアゴラ劇場、2月3日)で、舞踊評論家の武藤大祐さんが神村さんの相手を務めた。このトークのお陰で出演した5人のダンサーのうち誰が神村さんなのか判ったし、これまで数年間(5,6年?もっとか?)、Webに書かれた文章を折に触れて読んできた武藤さんがどんな人なのかも初めて知った。そんなわけで私は対談の両者に興味が湧いていたのだが、このトークでは公演者よりも評論家の方が中心に喋ったので、後者のお話が印象に残った。面白かった点を2つメモ:

1.「太った舞踊評論家」宣言?
冒頭で、武藤さんは自分がとても太っていて、そのために自分の呼吸が荒くて睡眠の際に気になってしまうほどだと、インパクトのある告白をする。そうしたことから、「世界の中で自分の体が出っ張っている感覚。過剰な感じ」を自分の身体に対してもっていると言う。私はダンス公演を観るとき、そのときの身体的コンディションの影響が無視できないことを常々感じていた。そういう話はよく公演を観る知り合いとの間でも出るし、誰かが同等の主旨を書いているのをどこかで読んだこともある。「疲れていると集中できない」という問題以上に、観客の身体はダンスを観るときに無視できないファクターになっているのではないかと思う。集中できないのは困ったことだが、観客の個々の身体の状態や記憶などによって公演の体験が変わってくることは、むしろダンスという芸術の可能性に関わる重要なテーマである。おそらく、武藤さんはそうした問題意識を踏まえて、自分が「太った舞踊評論家」であることを最初にアピールしたのではないか。彼は自らを「体フェチ」と呼んだりしていて、実際、彼の文章からは私には認知できないようなダンサーの身体の違いに対する繊細な感性をもっていることがうかがえるのだが、そのことと彼が太っていることは関係があるのでは?と冒頭の語りを聞いてハッとさせられた。よく、ダンスを理解するためには自らも踊ってみないと判らないと言われたりする。バレエの技術を語る前に、教室に入門してみろという説がある。そのようにダンサーの身体に自らの身体を近づけていくことも一つの道だが、批評者のポジションはそればかりが正解ではなかろう。真逆もアリだ。私は自分が知っている十名くらいの舞踊評論家の身体を思い浮かべてみたが太っている人は一人しか思い浮かばなかった(太った演劇評論家なら何人も浮かぶのに!)。これまで考えてもみなかったが、現在、舞踊批評の言説が痩せた人たちによって独占されているとしたら、「太った舞踊評論家」というポジションは案外、重要かもしれない。「過剰な感じ」から生まれる繊細な感性が批評の言説を豊かにするだろうし、痩せた身体による鑑賞体験のみが特権化されてはならないからだ。

2.日常における行動と環境変化
トーク中盤では、「日常におけるささやかな身体的快感が大事で、そうしたことが生活に潤いを与える」と主張していた。自動ドアに向かって歩いていき、ちょうどドアの前まで来たときにタイミング良く開いて、止まらずに通過できたときの快感。あるいは、信号のある横断歩道で同じようにタイミング良く信号が変わって、立ち止まることなく横断できたとき、といった例が挙げられた。どちらも「行動と環境変化の同期」ということかと思うが、こういうものがダンス的なのだ、と彼は言う。私は「●●ってダンス(的)」という物言いが嫌いなのだが、この指摘は面白いと思った。自動ドアの例も信号の例も、どちらも誰もが日常的に経験していることで、あちこちでネタにされたりもしている(彼は『R25』誌で読んだと言う。私はTVでダウンタウンが「気持ちの良いこと」として実演するのを見たことがある)が、それをダンスと結びつけて語った例は知らない。まさに「太った舞踊評論家」の面目躍如(と勝手に思った)。踊っているダンサーにとって、環境(=空間)に意識を配ることは非常に重要である。自らが動くことで刻々と変わっていく空間を絶えず意識しながら踊っている。ダンサーの空間への意識が、観客にダンサーの小さな身体がその何十倍もある舞台空間を支配しているかのように感じさせることを可能にするし、空間の変容を体験させる力も持っている。ダンス鑑賞の快楽の一つに、そうした空間に対するイリュージョンの体験があるのはまず間違いないだろう。などといったことを考えれば、自分の運動によって環境が変化した(ドアが開くことはまさに空間の変化だ)かのように因果関係を錯覚する体験は、踊っているダンサーの体験に近いし、自らは踊らない観客がダンス鑑賞から快楽を引き出す際の一つの参照項となる体験になりそうだ。

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